SPECIAL

2023.03.26

2周年記念、大河ゆの×三嶋たぬ対談①

インタビュアー・ライター:あいざわあつこ / ライター:青沢亮佑

繊細な筆致で描かれる、読み手の心に訴えかける“感情”表現。

―― まずは『Clock over ORQUESTA』(以降、クロケスタ)のマンガ制作の経緯などをうかがわせてください。三嶋先生は初めてクロケスタのお話が来たとき、どのように感じられましたか?
三嶋:最初に資料をいただいたときはキャストさんや作曲家さん、イラストレーターさん、皆さん豪華でびっくりしました。
また投票の結果でマンガの展開が変わることもお聞きして……。これは面白いことが始まるなとわくわくしました。
 
―― ちなみに、三嶋先生をご指名されたのは大河先生だとお聞きしましたが。
大河:そうです。
たぬ先生のマンガは、表情のみで描かれる感情表現がとても素敵なんです。
人って自分の気持ちを言葉にできないとき、顔に思いが出てくるじゃないですか。
そういうのって、やっぱり読み手の心に訴えかけてくるんですよね。
また表情だけじゃなく、指先や体の動きなど、身体表現も十二分に生かしてくれるのではないかと思って、お声がけしたんです。
三嶋:ありがとうございます、嬉しいです!
大河:こちらこそ、ありがとうございます。ふふふ(笑)
 
―― ずばり、三嶋先生はお気に入りのキャラクターはいますか?
三嶋:もちろんみんな好きなので、1番は決められないんですけど……。お気に入り、あえていうなら一十さんはふわふわしてて好きですね。
 
―― おぉ~! おじいちゃんですね!
三嶋:はい、おじいちゃんです(笑)
 
―― ちなみに、大河先生から見て『三嶋先生が描くこの子が好き!』というキャラクターはいますか?
大河:全員『好き』です。各キャラクターがそれぞれ、マンガの中でとても美人になる瞬間があって……。いつもお話を書きながら『たぬ先生ならこんな風に描いてくれるはず』を想像するんですよ。
実際に描いていただいたマンガを拝見すると、私が想像する300%も美人な仕上がりで……。
三嶋:僕としては、ゆの先生の言葉選びや文章の中に色気を感じるときがあって……。シナリオから『色っぽくしてください』と伝わってくるんです。
そういうときは、『あぁ、こういうことなのかな?』とキャラクターにも色気が出るように描いています。
 
―― 他にも、なにかこだわっている点はありますか?
三嶋:うーん、そうですね……。決めゴマや、キャラクターの心情を訴えるシーンは表情をしっかり描くようにしています。あと、できるだけ衣装も細かく描くようにしていますね。
今まで長髪のキャラクターや、女性的な服装を描いたことがなかったので、六華ちゃんは特に頑張りました。

12人の個性的なキャラクターと不思議なビスクドール――その印象とは。

―― ここからは各キャラクターの印象をおうかがいできればと思います。まずは一夜君からお聞きしてもよろしいでしょうか?

三嶋:初めて拝見したとき、物語のメインになる男の子なのかなと思いました。それから……もともとクールなイメージだったんですけど、いざ描いてみるとちょっと熱血な一面があって、意外でしたね。
大河:一夜はいわゆる『等身大の男の子』なんですよね。精神的に大人びているところと、まだ幼いところがある。友達や、大人達に向けて“見せたい部分”と“本当の自分”との差に葛藤している男の子です。
三嶋:たしかに、等身大の男の子って感じがしますね。
個人的にはくまちゃんを持っているのがかわいくて好きです!
 
―― それでは二香ちゃんはいかがでしょうか?
三嶋:二香を描くときは、彼がどんなふうに周りの目に映っているのかを意識しました。二香本人の気持ちよりも、パッと見て『色っぽいな』、『かっこいいな』と周りの人が思考停止する。そんな状況が二香にとっては普通なのかなと思って描いていました。
大河:二香には無自覚な『持てる者』の傲慢さがありますよね。見た目は美しくスマートだけれど、他者の気持ちがわからない。なので、うまく『皆が求める二香』に沿うことができない。たぬ先生のマンガでは、そういった二香のパーソナリティーをうまく表現していただきました。
三嶋:上手にできていたなら嬉しいです、ありがとうございます。
僕は絵でしか伝えることができないので、そういった部分でキャラクターに“色”をつけたいという気持ちはたしかにありました。
 
―― では続いて三斗君はいかがでしょうか?
三嶋:最初は、歌をうたう子なのに声を失うかもしれないというのがしんどかったです。
人を寄せつけない性格はまるで卵の殻のようで……。
大河:卵の殻とは……いい表現ですね。割ろうとすれば割れそうなのに、内外どちらかからの力が加わらないと(殻は)割れない、変わりようがない。
三嶋:そうなんですよね。やっぱり命を守ってる殻なので。
大河:元来、三斗は歌や音でしか自分の想いを表現できなかった人です。でも、物語の中でいろんなキャラクターと関わることで、少しずつ表現の幅が広がりました。
キャラクターのみならず、たぬ先生含めたくさんのクリエイターさんが三斗の心を引き出してくださったおかげで、心の殻が割れて表情が豊かになった印象があります。
 
―― 四麻さんはどんなイメージでしょうか?
三嶋:優しすぎる人なのかなと思っています。大人になって探偵をして、汚いものもたくさん見てきたはず。でも六華ちゃんのことや、ヒーローになりたかった過去みたいな、大事なものがまだ心にある。そういうやわらかい部分と、現実との間で乖離が起きてしまう人なのかなと。
大河:四麻としては『優しくしたいから優しくした』というとても単純な想いなんですよね。ただ、成長するにつれて徐々に『優しさ』の整合性が取れなくなる。それでも、自分の芯として、人に優しくしたいという信念を持ち続けたいと願う。そんなキャラクターですかね。
 
―― 五百助君はいかがでしょうか?
三嶋:五百助君は視野が広くて、すごく兄貴肌なイメージがあります。でも焦ると猪突猛進に決めてしまうところがある印象ですね。
大河:五百助は受け入れ難い状況に直面したとき、無理に飲み込み溜め込んでしまうタイプです。
大人になると、納得できないことがどんどん増えていって、大切に守ってきたポリシーが不条理の重みに耐えられず壊れてきてしまう。そういう脆さが五百助にはある。硬いものほど壊れやすい、ですね。
三嶋:きっと、彼は20代後半になったらとってもいい男になると思うんです。
大河:わかります(笑)。
 
―― 確かに。……では、六華ちゃんについてお聞きしてもよろしいでしょうか?
三嶋:初めてビジュアルを見せていただいたとき、パッと見は女の子なんですけど……たとえばどうしても太くなってしまう手首を隠していたり、肩幅を隠していたり……。
きちんと“男の子”の要素を取り入れているデザインだったんです。
それを見たとき、六華ちゃんのコンプレックスもちゃんと表れているし、でもきれいに隠して描かれていて、すごく魅力的なキャラクターだなと感じました。
大河:六華は劣等感だらけなんですよね。しかも全て自分の内側の問題。
そして自分の“理想”のためなら、すべてを犠牲にしてでも追い求めてしまうんです。
他者の意見は関係ない。か弱く見えて、その『理想に固執する』精神はとても強いというギャップが彼の魅力かなと思います。

次回、更新は3月29日12時です。どうぞお楽しみに。